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福岡地方裁判所久留米支部 昭和56年(ワ)1064号 判決

原告

大津雅子

被告

山田万作

ほか一名

主文

一  被告水谷敬一は原告に対し金七八万九〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年七月二六日より支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告山田万作に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は二分し、その一を原告のその余を被告水谷の負担とする。

四  本判決は第一項に限り金三〇万円の担保を供して仮に執行することができる。

事実

(申立)

第一原告

一  被告らは各自原告に対し金七八万九〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年七月二六日より支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言。

第二被告ら

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

(主張)

第一原告の請求原因

一  原告は名古屋市瑞穂区瑞穂通三丁目三四番地先の道路交差点(以下本件交差点という。)の南東角に店舗を所有し薬局を経営している。

二  昭和五五年四月一二日夜より翌一三日朝の間に、氏名不詳者が被告山田方において同被告所有の小型貨物自動車(以下山田車という。)を窃取してこれを運転し、同日午前七時二〇分頃、本件交差点を北進してきて右折しようとしていたところ、被告水谷は普通乗用自動車(以下水谷車という。)を運転して同交差点に南進してきてその前部を前記山田車の左横前部に衝突させ、山田車をして原告店舗のシヤツターに激突するにいたらしめてこれを破壊し、窓枠、ガラス、店内の諸物品を破損させるにいたつた。

三  本件事故は、

1 被告山田が肩書住居の道路に面し通行人が自由に出入できる場所にキイをつけたまま山田車を夜間駐車していたため、氏名不詳者に窃取され、同人がこれを運転して本件交差点を右折するにあたり、南進してくる水谷車に気付きながら、その前を通過できると軽信して右折東進したことにより、

2 被告水谷は水谷車を運転して南進し本件交差点を通過するにあたり、約五〇メートル手前で右折しようとしている山田車を発見したものであるところ、かかる場合山田車の動静に注意して進行する義務があるのにこれを怠り、時速五〇キロメートル以上の高速で漫然進行し、右折を開始した山田車に気付かなかつたか、または水谷車の通過をまつてくれるものと軽信したことにより、

発生したものであるところ、被告山田は走る兇器といわれる自動車の所有者として、これが窃取され他人によつて走行され事故が発生する危険を未然に防止する義務を怠つたという点で、また被告水谷は前記運転業務上の注意義務を怠つた点で、それぞれ過失があり、本件原告の損害と因果関係がある。

四  原告は右店舗の損壊の修理のため、訴外有限会社加藤工務店に対し修理を依頼し、昭和五五年七月二五日金七八万九〇〇〇円を支払つた。

よつて、被告らに対し各自右金員及びこれに対する右出捐の翌日より支払済にいたるまで年五分の割合による金員の支払を求める。

第二被告らの答弁及び主張

一  被告山田

1 請求原因一の事実は不知。

2 同二の事実中、昭和五五年四月一二日夜より翌一三日朝にかけて被告山田方において山田車が窃取された事実を認め、その余の事実は不知。尚時刻は午前五時以前である。

3 同三の事実中、被告山田の山田車の保管状況を争いその余の事実は不知。

4 同四の事実は不知。

5 山田車が窃取された場所は、被告山田の家屋の敷地内であり、出入口は二か所あるがいずれも扉があり、通行人が自由に出入できる場所ではない。被告山田には山田車の保管につき注意義務を怠つた過失はない。仮にそうでないとしても、右過失と本件事故との因果関係はない。

二  被告水谷

1 請求原因一の事実は不知。

2 同二の事実中、被告水谷が昭和五五年四月一三日午前七時二〇分頃水谷車を運転し、本件交差点を南進し、山田車と接触した事実は認めるが、その余の事実は不知。

3 同三の事実中、被告水谷の運転状況を争い、その余の事実は不知。

4 同四の事実は不知。

5 被告水谷は、本件交差点に向け南進するに際しては法令の定める時速五〇キロメートル以内で青信号に従つて進行していた。また被告水谷が交差点の手前約五〇メートルに達したとき、山田車が交差点の中央で停止しているのを確認して直進したもので、被告水谷に運転業務上の過失はない。本件事故は、被告水谷が交差点中央より手前約一〇メートルに達したとき、山田車が突然右折を開始したので、被告水谷が急制動の措置をとつたが間に合わなかつたもので、山田車の一方的な過失によつて発生したものである。

(証拠)〔略〕

理由

第一  各当事者間で成立に争いのない甲第四、五号証に証人大津博子の証言によると請求原因一の事実を認めることができる。

第二  右甲第四、五号証、各当事者間で少くとも被告山田所有の家屋の写真であることに争いのない甲第三号証の一ないし五、第六号証、並びに右証言及び被告水谷本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)に弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認定できる。

一  昭和五五年四月一二日夜より翌一三日朝午前七時二〇分頃までの間に被告山田方において、同被告所有の山田車が氏名不詳者に窃取され、氏名不詳者はこれを運転して同日午前七時二〇分頃、本件交差点に向け北進してきて同交差点の中心付近をそのまま東に向け右折を開始した(被告山田との関係では右日時頃、被告山田方で山田車が窃取されたことは争いがない。)。本件交差点は、幅員約二二メートル片道三車線の南北道路と幅員一〇・五メートル片道一車線の東西道路が交差し、公安委員会の指定速度は南北が毎時五〇キロメートルであり、東西は毎時三〇キロメートルであり、当時交通量は少く見通しはよかつた。

二  被告水谷は右一三日午前七時二〇分頃、通勤のため水谷車を運転し時速五〇キロメートルで南進し、本件交差点の中心より手前約一二・五メートルにいたり、はじめて前記右折を開始した山田車を発見し、急制動の措置をとつたが効果なくして水谷車の前部を山田車の左前、横部に衝突させた。水谷車は衝突後左(東)向きに停止し、山田車はそのまま半回転して同交差点南東角にある原告方店舗前にある牛乳自販機に衝突してこれを押し出し原告店舗のシヤツターを半ば突きやぶつて停止した。

右被告水谷の供述中、「被告水谷が南進し、交差点の手前約五〇メートルにきたとき、山田車が交差点中心付近の右(西)側で一旦停止しているのを確認し、自車の通過をまつているのを確認して直進を継続し、山田車の手前約一二メートルにきたところ、同車が突然するすると右折を開始したので、急制動の措置をとつたが及ばなかつた。」との部分があるが、右のように見通しのよい交差点で一旦停止中の車が直進車の直前で右折を開始するということは通常あり得ないし、且つ前記被告水谷が立会つてその指示説明を記載してある甲第四号証に右のような記載がないことに照らしにわかに措信できず、他に反証はない。

第三  右認定事実によると、水谷車と山田車との衝突は、氏名不詳者が直進車である水谷車の進行を妨害しないで運転する注意を怠り右折を開始したことと、被告水谷が本件交差点付近の状況を確認して直進する注意を怠つたため山田車の発見がおくれ、且つ右状況に即応した適正な速度で進行する注意義務を怠つたという、両者の過失が競合して発生したものと認められる。(氏名不詳者は山田車を窃取して運転していたもので、交通法規を無視し、慎重さを欠いていたと推認でき、その過失割合は被告水谷より大であつたと思われるが、被告水谷の山田車の発見状況、運転速度に照らし、被告水谷の過失を否定できない。)

第四  次に、被告山田の責任について考えるに、弁論の全趣旨によれば、氏名不詳者が山田車を窃取したのは、被告山田が夜間から早朝にかけキイを付けたまま駐車していたことが原因の一となつたものと認められるが、同車が人の出入の自由な場所に放置されていたとの点についてはこれを認めるに足る証拠はなく、かえつて前記甲第三号証の一ないし五、第六号証によれば、同車は門扉のある(開、閉いずれにせよ。)出入口より奥に駐車してあつたものと認められる。右の状況からみて、他に特段の事情の認められない本件では、被告山田の山田車の保管状況、窃取、その運転、そして本件事故との間に相当因果関係があるということはできない。

第五  そこで原告の損害について考えるに、前記甲第五号証、被告水谷との間で成立に争いのない甲第七号証、前記証言、これにより成立を認める甲第一、二号証によると、原告は本件事故により、原告の店舗のシヤツター、窓枠、ガラス等を破壊され、その修理のため金七八万九〇〇〇円を支出するのやむなきにいたつたものと認められ、反証はない。

第六  以上の次第で原告の被告水谷に対する右損害金七八万九〇〇〇円及びこれに対する本件事故の後である昭和五五年七月二六日より支払済まで年五分の割合による金員の支払を求める請求は理由があるので認容し、被告山田に対する請求は失当として棄却することとし、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 仲吉良榮)

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